
冬の脱衣室が危険な理由
数年前、住宅技術評論家の南雄三さんが、日本の住宅における「脱衣室温度」の実態を調査しました。
調査は、山口県などを含む日本の中でも比較的温暖とされる地域でも行われたものです。つまり、寒冷地ではなく「一般的な日本の住宅」を対象にした調査だという点が重要です。
その結果は、私たちが想像している以上に厳しいものでした。

木造住宅における脱衣室の平均温度は、暖房ありで14.4℃、暖房なしで12.3℃。
暖房をしている・していないに関わらず、その差はわずか2℃程度しかありません。つまり、そもそも家の性能が低いと、暖房を入れても十分に室温が上がらないという現実が見えてきます。
さらに注目すべきは「最低温度」。木造住宅では、脱衣室の最低温度が**マイナス0.5℃**という結果も出ています。これはほぼ外気温と同じレベルで、住宅内部とは思えない環境です。
海外に目を向けると、例えばイギリスでは「寒い家に住むこと」は基本的人権の侵害と考えられています。
セントラルヒーティングが整備され、室温18℃を下回る賃貸住宅には改善命令や解体命令が出ると言われています。その基準から見れば、日本の脱衣室環境は、残念ながら話にならないレベルと言わざるを得ません。
次に、断熱レベル別に「暖房なし」での脱衣室平均温度を比較したデータを見てみましょう。

次世代省エネ基準(1999年基準)以下:11.7℃
同基準と同等:14.7℃
同基準以上:16.5℃
「以下」と「同等」で約3℃、「以下」と「以上」では**約4.8℃**もの差が生まれています。
これは体感的には非常に大きな差で、着替え時の寒さやストレス、身体への負担がまったく違います。
この結果から明確に言えるのは、脱衣室が寒い原因は“暖房不足”ではなく、“住宅の断熱・気密性能そのもの”だということです。
東京救急協会の推定によると、浴室で亡くなる方の数は年間約14,000人。これは、2010年時点の交通事故死者数(4,863人)の約3倍にあたります。
浴室事故の多くは「ヒートショック」が原因です。暖かいリビングから寒い脱衣室、さらに熱い浴室へと移動することで、急激な温度差が生じ、血圧が大きく変動し、脳卒中や心臓発作を引き起こすリスクが高まります。

これは高齢者だけの問題ではありません。持病がない方でも、寒暖差の大きい環境では誰にでも起こりうる事故なのです。
冬場の脱衣室のリスクを減らすために最も重要なのは、住まいの基本性能=断熱・気密性能を高めることです。中でも、今すぐ取り組みやすく、効果が高いのが「窓の断熱化」。

熱の出入りが最も大きいのは窓。内窓の設置や高断熱ガラスへの交換だけでも、脱衣室の温度環境は大きく改善されます。
大がかりな工事をしなくてもできるリフォームだからこそ、まずは脱衣室から始めたいものです。
寒くないことは、快適なだけでなく、命を守る性能でもあります。
住まいの性能を見直すことは、家族の健康を守ること。
そんな視点で、これからの住まいづくりを考えていきたいものです。







