普遍的な住宅デザインのすすめ
住宅を建てるとき、デザインにこだわることは決して悪いことではありません。
毎日を過ごす空間だからこそ、自分の好みや価値観を反映させたい――そう思うのは自然なことです。ただし、その「デザイン」が一過性のトレンドに過ぎないのであれば、立ち止まって少し考えてみることも大切です。
SNSや住宅雑誌には、今どきのスタイルや新しいデザインが溢れています。
設計士やデザイナーが提案するアイデアには、時代の流れを巧みに取り入れた洗練されたものも多く、思わず惹かれてしまうかもしれません。しかしその裏には、設計者自身の「作品性」や「個性」を表現しようという思惑が見え隠れすることが少なくありません。
つまり、それは“住む人のため”というよりも“見せるための家”になってしまっている可能性があるのです。
家のデザインは、その家で過ごす年月とともに変化していく「暮らし」に寄り添うものであるべき。短期的に“カッコいい”や“個性的”と感じられるデザインが、10年後、20年後もそう思えるとは限りません。
逆に“美しい”と感じるデザインには、素材や佇まいの中に、いつまでも色褪せない価値が宿っていると感じます。
また、デザインに過度にこだわるあまり、住宅としての本来の性能が後回しにされてしまうことも少なくありません。断熱・耐久性・日射遮蔽・メンテナンス性――これらは長く住み続けるうえで非常に重要な要素です。しかし、見た目を優先した設計によって、こうした基本性能が十分に発揮されなくなってしまう例もあります。
たとえば、近年よく見かける「軒ゼロ」の家。
屋根の軒を出さず、壁面がすっきりと揃ったフォルムは、確かに現代的でシャープな印象を与えます。外観のデザインとしては魅力的に映るかもしれませんが、実際に採用するか否かは慎重な検討が必要です。
その理由は、軒がないことで外壁や窓に直接雨が当たりやすくなり、室内への雨水侵入リスクが高まるだけでなく、外壁が汚れやすく劣化が早まる。さらに夏場には、軒がない分、日射がダイレクトに室内に差し込みやすくなり、冷房負荷が高まる原因にも・・・
結果としてパッシブデザインという設計手法を取り入れることができず、光熱費が増えたり、室内環境の快適性が損なわれたりすることにつながります。
短期的には「かっこよさ」や「トレンド感」があっても、10年、20年と住み続ける中で後悔することになりかねないのです。
では、私たちはどのような住宅デザインを目指せばよいのでしょうか。
答えは“普遍的なデザイン”を意識すること。
具体的には、見た目の良さとともに、機能性・耐久性・メンテナンス性といった長期的な視点でのバランスが取れていること。飽きのこないシンプルさや、日本の気候風土に合ったつくり。家族のライフスタイルに自然にフィットする空間構成。そうした要素を大切にしていくことが、結果として「住みやすい家」「長持ちする家」につながります。
もちろん、見た目にこだわりたいという気持ちも理解できます。だからこそ私たちは、「デザイン」と「性能」の両立を前提とした設計提案を基本にしています。設計者の自己満足ではなく、住まう人にとって本当に心地よい空間とは何かを丁寧に対話しながらカタチにしていく。これこそが、家づくりの本質であると考えています。
トレンドに惑わされることなく、自分たちの暮らしにとって本当に必要なものは何かを見つめ直す――
そんな家づくりを、一緒に目指してみませんか?